OBD2 コード P146E とは? ビュイック車のエアコン制御システムの警告
OBD2 コード P146E は、ビュイックを含む多くのGM車両で見られる、エアコン(A/C)システムに関する特定の故障診断トラブルコード(DTC)です。このコードの正式な定義は「エアコンクラッチ制御回路 – 電圧低」となります。簡単に言えば、車両のパワートレインコントロールモジュール(PCM)またはエアコン制御モジュールが、エアコンコンプレッサーのクラッチをオンにするための制御回路において、予期しない低電圧(通常はグランドレベルに近い)を検出したことを意味します。
この回路は、エアコンを作動させたいというドライバーの要求(A/CスイッチON)を受けて、コンプレッサーの電磁クラッチを駆動するための信号を送る役割を担っています。P146Eが設定されると、多くの場合、エアコンが全く作動しなくなったり、間欠的にしか冷えなくなったりする症状が現れます。これは、安全のためにPCMがクラッチの作動を禁止するフェイルセーフモードに入るためです。
コード P146E が設定される仕組みと条件
PCMまたは専用のHVAC制御モジュールは、エアコンクラッチリレーを制御する回路を常に監視しています。キーがONの状態で、モジュールがクラッチを作動させる指令を出していない(オフ状態)時に、その制御回路の電圧が極端に低い(例:1ボルト以下)状態が一定時間継続すると、P146Eが設定されます。これは、回路が意図せずグランドに接続されている(ショートしている)可能性を示唆しています。
ビュイックでP146Eが発生する主な原因:徹底的な分析
コードP146Eの根本原因は、エアコンクラッチを制御する電気回路のどこかで「アース(グランド)へのショート」または「電圧の異常な低下」が発生していることです。以下に、可能性の高い原因を頻度の高い順に列挙し、詳細を説明します。
原因1: エアコンクラッチリレーの故障または不良接続
最も一般的な原因の一つです。リレー内部の接点が溶着したり、コイルが断線したりすると、制御端子側の回路が内部でショートし、P146Eを引き起こすことがあります。
- リレー内部のコイルまたはトランジスタのショート
- リレーソケットの腐食、ゆるみ、ピンの曲がり
- リレー自体の経年劣化
原因2: エアコンコンプレッサー電磁クラッチコイルの故障
コンプレッサー前面にあるクラッチコイルそのものが内部でショート(巻線の絶縁不良)を起こしている場合です。コイルの抵抗値が極端に低くなると、制御回路に過大な電流が流れ、実質的に低電圧状態と検知されることがあります。
原因3: 制御回路の配線障害
エアコンクラッチリレーからPCM/HVACモジュールへ、またはリレーからクラッチコイルへの配線に問題があるケースです。
- 配線の絶縁被覆が摩耗し、ボディ(アース)に接触している
- 配線ハーネスのコネクターが腐食し、端子同士がショートしている
- 配線がエンジンなどの高温部に触れ、被覆が溶けてショート
原因4: PCM(パワートレインコントロールモジュール)またはHVAC制御モジュールの内部故障
比較的稀ですが、モジュール内部のドライバー回路(リレーを駆動するトランジスタなど)がショートしている可能性があります。これは、他の原因を全て排除した後に検討すべき項目です。
原因5: 関連するヒューズの断線またはフィーダー回路の問題
クラッチリレーやモジュールに電力を供給するヒューズが断線している、またはその供給回路(バッテリーからヒューズボックスまでの配線)に問題があると、関連回路全体の電圧が低下し、間接的にP146Eを引き起こす場合があります。
専門家による診断手順:P146Eの効果的なトラブルシューティング
安全かつ確実に原因を特定するためには、系統的な診断が不可欠です。以下の手順に従って進めることを推奨します。
ステップ1: 基本的な目視検査とヒューズ確認
まずは、簡単に確認できる部分から始めます。エンジンルーム内のエアコンクラッチリレー(取扱説明書またはリレーボックスの蓋に記載された位置図を参照)を探し、抜き差しして接点の腐食がないか確認します。同時に、エアコンシステムおよびエンジン制御関連のヒューズをすべてチェックします。
ステップ2: スキャンツールを用いたデータの確認
OBD2スキャンツールを接続し、コードP146Eを記録した後、クリアします。エンジンをかけ、A/CスイッチをON/OFFしながら、以下のライブデータを観察します。
- 「A/Cクラッチリレー制御」または類似のパラメータ: ON/OFFの指令が出ているか。
- 「A/Cクラッチ状態」: 実際にクラッチが作動していると認識されているか。
- 「A/C圧力センサー」の値: 冷媒圧力が適正範囲内にあるか(圧力不足でもクラッチは作動しない)。
コードが即時再設定されるか、A/C作動時に再設定されるかを注視します。
ステップ3: リレーとクラッチコイルの抵抗測定(マルチメーター使用)
エンジンを止め、バッテリーのマイナス端子を外した状態で行います。
- クラッチコイルの測定: コンプレッサーのクラッチコイル端子間の抵抗を測定します。仕様値は車種により異なりますが、通常は3〜5Ω程度です。0Ωに近い場合は内部ショート、∞(無限大)の場合は断線を示します。
- リレーの測定: リレーのコイル端子間の抵抗(通常70〜100Ω程度)と、接点端子間の導通をチェックします。また、リレーソケットの制御端子(PCMから来る線)とアース間の抵抗を測り、キーONでリレーOFF時に極端に低抵抗でないか確認します。
ステップ4: 制御回路の電圧検査とショート探し
バッテリーを接続し、キーONエンジンOFFの状態で、リレーソケットの制御端子(PCM側)の電圧を測定します。A/CスイッチをOFFにしている時、この端子の電圧はバッテリー電圧(12V前後)であるべきです。ここで0Vや1V以下の極端に低い電圧が検出されれば、配線のアースショートまたはPCM不良が強く疑われます。配線図を参照し、該当回路の中間コネクターを外しながら電圧をチェックし、ショート箇所を特定します。
P146Eコードの修理方法と予防策
診断結果に基づき、以下の修理を実施します。
修理1: 部品交換
- リレー不良の場合: 同一仕様の新しいリレーと交換。純正品または同等品の使用が望ましい。
- クラッチコイル不良の場合: コンプレッサーからクラッチアセンブリのみを交換するか、コンプレッサー総交換が必要な場合が多い。冷媒回収・充填作業が必要となるため、専門工場での修理が一般的。
- 配線不良の場合: ショートしている部分の配線を修理、またはハーネスユニットを交換。十分な絶縁処理と固定を施す。
修理2: PCM/モジュールの交換または再プログラミング
他の全ての原因が否定された場合、PCMまたはHVAC制御モジュールの交換を検討します。交換後は、車両固有の設定を行うための「プログラミング」作業が必須となることがほとんどです。
予防策とメンテナンスアドバイス
P146Eを予防する直接的な方法はありませんが、エアコンシステムの早期故障を防ぐ習慣は有効です。
- 定期的なエアコンの作動: シーズンオフでも月に1回は10分程度作動させ、コンプレッサーオイルを循環させる。
- エンジンルームの清潔保持: 定期的に清掃し、特にリレーボックスやコネクター周りの泥・水分を取り除く。
- 異音・異臭への早期対応: エアコン作動時のコンプレッサーからの異音や、冷えが悪いなどの症状を無視せず、早めに点検を受ける。
コードP146Eは、主に電気系の故障に起因します。系統的な診断手順に従うことで、原因を特定し、適切な修理を行うことが可能です。特に配線のショートは火災リスクにも繋がりかねないため、確実な修理が求められます。自信がない場合は、自動車電気系統に詳しい専門整備工場への相談を強くお勧めします。