米国自動車産業とセダンの奇妙な巡り合わせ
米国自動車産業の歴史は、セダン(ベルライン)との離合集散の連続と言える。2000年代後半の金融危機後、ビッグスリーは燃費効率の良い小型車やセダンの開発に注力すると宣言し、一時はその路線を維持した。しかし、市場でSUVやトラックの収益性が圧倒的に高いことが明らかになるにつれ、主要メーカーはセダン市場から相次いで撤退。フォードは2018年に北米市場でのセダン生産をほぼ終了し、シボレー・マリブなどの看板モデルも姿を消した。
電気化の潮流がもたらす構造変化
この流れに変化の兆しが見え始めている。背景にあるのは、自動車産業の根幹を揺るがす電気化(EV)への移行だ。電気自動車のプラットフォームは設計の自由度が高く、従来のガソリン車プラットフォームでは採算が取りにくかったセダンタイプのEVを、新興メーカーが相次いで投入。特にテスラのモデル3や中国メーカーの電気セダンは、性能とデザインで一定の支持を集め、市場に新たな選択肢を提示した。
デトロイト復権の条件と課題
この動きは、本拠地デトロイトへの影響が大きい。ビッグスリーはSUVやピックアップトラックの電動化に注力する一方で、セダン市場の隙間を埋める動きも見せ始めた。例えば、シボレーは電気セダン「マリブEV」の復活を発表している。しかし、過去の撤退で失われた顧客信頼の回復、そして新興EVメーカーとの差別化が最大の課題だ。単なる「復活」ではなく、電気ならではの新価値を持つセダンを創造できるかが、デトロイトがこの潮流を自らの「再起のチャンス」と捉えられるかの分岐点となる。
歴史は繰り返すと言われるが、自動車産業の次の章は、単なる循環ではなく、電気化という非連続的な変化の上に描かれる。米国製セダンの帰還は、古い形の復活ではなく、産業構造そのものの変革を伴う新たな挑戦の始まりを意味している。