実用性の権威が語る、意外な愛車
自動車ジャーナリスト、ジョン・デイビスは「MotorWeek」の顔として数十年にわたり、実に数千台を超える車を試乗・評価してきた人物です。彼の批評は常に実用性、信頼性、日常での使い勝手に重点が置かれており、まさに「実用主義の権威」と呼ぶにふさわしい存在です。そんな彼が個人的に最も愛着を持ち、手放したことを後悔しているという車は、多くのファンの予想を裏切るものでした。
予想外の選択:AMC・グレムリン
デイビスが懐かしむのは、1970年代にアメリカン・モーターズ(AMC)が製造したコンパクトカー、「グレムリン」です。当時からその特異なデザインは賛否両論を巻き起こし、特に切り詰められたような短いテールゲートは「デザイン上の冒険」と揶揄されることもありました。一般的な自動車評論家、特に実用性を重んじる者であれば、このような個性的すぎる車種を高く評価することは稀でしょう。
実用主義者の目に映った真価
では、なぜデイビスはこの車を高く評価するのでしょうか。彼の着眼点は、そのユニークな外見の先にありました。まず、そのコンパクトなボディサイズにもかかわらず、室内空間は驚くほど効率的に設計されていた点です。また、当時のアメリカ車にありがちな過度な装飾や派手さがなく、機能性が優先されたシンプルな内装も彼の好みに合っていました。何よりも、彼が所有していたモデルの機械的信頼性と、扱いやすい運転特性が、日々の実用的なパートナーとして完璧だったと回想しています。
忘れられない存在である理由
ジョン・デイビスがグレムリンを「後悔している」のは、単なるノスタルジーだけではありません。それは、市場の評価や一般的なイメージに流されず、車そのものの本質的な価値―運転の楽しさ、日常への適合性、そして何よりも「個性」―を見極めることの重要性を物語っています。大量生産が進み、画一化されがちな現代の自動車市場において、このエピソードは、メーカーの挑戦と、それを受け入れるユーザーの視点の両方について、深く考えさせる示唆に富んでいます。彼の「最も後悔している一台」は、自動車愛好の形は一つではないことを教えてくれる貴重な証言なのです。