自動車産業の常識を変えるメルセデス・ベンツの挑戦
ドイツの高級自動車メーカー、メルセデス・ベンツは、気候変動対策に向けた野心的なロードマップを発表しました。その中核を成すのが「Tomorrow XX」という技術プログラムです。これは単なる電動化の加速ではなく、車両の設計段階から使用、そしてリサイクルに至るまでの「バリューチェーン全体」の変革を目指す包括的な戦略です。最終的な目標は、事業活動におけるカーボンニュートラルの実現にあります。
ライフサイクル全体を見据えたアプローチ
従来の自動車の環境負荷評価は、走行中の排出ガス(タンクtoホイール)に焦点が当てられがちでした。しかし、メルセデス・ベンツが「Tomorrow XX」で重視するのは、原料調達、生産、物流、使用、廃棄までの全ての段階を含む「ライフサイクルアセスメント」です。特に、バッテリーやボディに使用される素材の製造プロセスは大きな二酸化炭素排出源であり、ここへの対策が重要視されています。例えば、グリーン鋼材の採用や、リサイクル素材の使用比率向上など、サプライヤーとの連携を深めながら素材そのものの脱炭素化を推進します。
設計思想の根本的な転換
このプログラムは、エンジニアリングの在り方そのものにも変化をもたらします。「モノづくり」の最初のステップである設計段階から、環境負荷を最小化することを最優先課題と位置づけています。具体的には、車両の軽量化を通じたエネルギー効率の向上、耐久性とリサイクル性を両立した部品設計、そして将来的なアップデートや部品交換を容易にする「未来へのアップグレード可能性」の追求などが挙げられます。これにより、クルマの寿命を延ばし、廃棄物を減らす「サーキュラーエコノミー」の実現を後押しします。
業界全体への波及効果
メルセデス・ベンツが「Tomorrow XX」に取り組む意義は、自社の排出量削減だけにとどまりません。高級車ブランドとして技術的なブレークスルーを達成し、そのノウハウを広く公開することで、自動車産業全体の脱炭素化をリードする役割が期待されています。サプライチェーンの変革は関連するあらゆる産業に影響を与え、よりクリーンな素材や製造プロセスへの需要を創出します。これは、単なる企業戦略を超え、持続可能なモビリティ社会の実現に向けた重要な一歩と言えるでしょう。