「つまらないクルマ」からの決別
2017年、当時の社長であり、現在は会長を務める豊田章男氏は力強い宣言を行いました。「トヨタはこれ以上、つまらないクルマを作らない」。これは、彼自身のような自動車愛好家のために、スポーティな車種がラインアップから消えつつあった状況への明確な異議申し立てでした。この言葉は、単なるスローガンではなく、ブランドの根幹を揺るがす変革の始まりを告げるものだったのです。
情熱を形にする「GR」の哲学
この宣言から生まれたのが「GAZOO Racing」、通称「GR」の本格的なブランド化です。GRは、モータースポーツでの過酷な実戦で培われた技術とノウハウを市販車に還元することを使命としています。その開発理念は「本物づくり」。コンピューターシミュレーションだけに頼らず、実際にサーキットを走り、ドライバーとエンジニアが一体となって「手応え」と「感動」を追求するプロセスを何よりも重視しています。
2025年：約束が結実した時
時は流れて2025年。かつての約束は確かな形で結実し、トヨタのラインアップは一変しました。GRヤリス、GRスープラ、GR86をはじめとするGRブランドの車両は、それぞれが明確な個性と卓越したドライビングパフォーマンスを備え、世界中のドライビングエンスージアストから熱い支持を集めています。これらの車は、効率や実用性だけではない、運転そのものから得られる純粋な喜びを提供します。
トヨタGRが実現したのは、単なる高性能車の開発ではありません。ドライバーとクルマが一体となる瞬間の感動、つまり「人と車のつながり」そのものを現代に蘇らせ、次世代へと確実に伝えようとする挑戦です。数字では測れない「手応え」と「情熱」を最優先するGRの存在は、自動車産業が大きく変容する時代において、クルマの本質的な価値とは何かを改めて問いかけています。