アウディを変えた「5」という数字の革新
四輪駆動の「クワトロ」と並び、アウディのアイデンティティを築いた重要な要素が、5気筒エンジンです。2026年に誕生から50周年を迎えるこの奇数気筒エンジンは、単なるパワーユニットを超え、ブランドの競技活動と市販車の性能を根本から変革したレジェンドです。その独特の排気音と高いポテンシャルは、今も熱狂的なファンを魅了し続けています。
逆境から生まれたパフォーマンスの象徴
5気筒エンジンの開発が始まった1970年代、アウディは親会社フォルクスワーゲングループ内で明確なスポーツ性能の役割を求めていました。当時、主流は4気筒や6気筒であり、5気筒は非常に珍しい構成でした。しかし、この「異端」の選択が功を奏します。4気筒では物足りず、6気筒では重すぎるというジレンマを解決し、コンパクトながら高出力と滑らかな回転性を両立させたのです。1976年にデビューしたこのエンジンは、アウディのモデルに他にはない個性と高性能をもたらしました。
ラリーの王者から最速のRSへ
5気筒エンジンの真価が世界に知れ渡ったのは、過酷な世界ラリー選手権(WRC)の舞台でした。クワトロと組み合わされた高出力の5気筒ターボエンジンは、1980年代に無敵の強さを発揮し、数々の勝利でアウディの名を轟かせました。この競技技術のフィードバックは、市販車にも急速に反映されます。1994年に登場した初代「RS 2アバント」のハートを担ったのも5気筒ターボエンジンであり、これはアウディの高性能「RS」モデルの礎となりました。ラリーで鍛えられた技術が、最速の市販車を生み出した瞬間です。
現代に継承されるレガシー
半世紀を経た今、5気筒エンジンはアウディの技術遺産として、最新の「RS 3」や「TT RS」に受け継がれています。最新のモデルでは、2.5リッターターボエンジンが400馬力近い出力を発生させ、かつ環境規制にも対応しています。その特徴的な「ブルブル」と唸る排気音は、デジタル化が進む現代において、機械的な鼓動を感じさせてくれる貴重な存在です。アウディの5気筒は、単なる過去の栄光ではなく、進化を続けながらブランドの「スポーツ」の精神を体現し続ける、生きている伝説なのです。