OBD2 コード P1479 とは? 基本定義とシステム概要
OBD2 (On-Board Diagnostics II) コード P1479 は、「蒸発燃料装置(EVAP)リーク診断ポンプ制御回路」に問題があることを示す「メーカー固有」または「車両メーカー制御」の故障コードです。このコードは主に日産、インフィニティ、三菱などの車両で頻繁に確認されます。EVAP システムは、燃料タンクから発生する有害な燃料蒸気を大気中に放出させずにエンジンで燃焼させ、大気汚染を防止する重要な役割を担っています。P1479 は、このシステム内の「リーク診断」を専門に行うポンプの電気的制御回路に異常が検出された際に記録されます。
EVAP リーク診断ポンプの役割
リーク診断ポンプ(LDP: Leak Detection Pump)は、EVAP システムの健全性を監視する「自己診断機能」の核心部品です。エンジン制御ユニット(ECM)の指示に従い、システム内に意図的に微小な圧力(正圧または負圧)を発生させ、その圧力変化を監視することで、燃料タンクキャップの緩みやホースの亀裂などによる極めて小さな蒸気漏れ(通常は直径0.5mm相当)を検出します。P1479 は、このポンプを動かすための電気信号(電圧、抵抗、接地)に問題がある状態を指します。
コードが設定される条件とドライバビリティへの影響
ECM は、イグニッションがONの状態でリーク診断ポンプへの制御信号を送信した際、ポンプ側からのフィードバック信号(ポンプの動作状態を示す信号)が予期された範囲内にない場合、または回路が開いている(断線)、短絡していると判断した場合に P1479 を記録し、チェックエンジンランプ(MIL)を点灯させます。このコード単体では、エンジンの基本的な始動や走行性能に直接的な影響を与えることは稀です。しかし、EVAP システムの診断が実行不能となるため、環境規制に違反し、他の重要な故障診断を妨げる可能性があります。
P1479 コードの主な原因と症状:何が故障しているのか?
P1479 の根本原因は、ほぼ確実に電気系統またはポンプ自体の物理的故障にあります。機械的な真空漏れが直接 P1479 を引き起こすことはありませんが、関連する他のコード(P0442 小漏れなど)と同時に発生する場合があります。
原因 1: リーク診断ポンプ自体の故障
最も一般的な原因です。ポンプ内部のモーターが焼損したり、機械的な詰まりや摩耗により物理的に作動しなくなったりします。ポンプはエンジンルーム内、特にフロントフェンダー付近やサスペンションタワー近くに配置されていることが多く、水や埃、熱の影響を受けやすい環境にあります。
- モーターコイルの断線または内部短絡
- ポンプ内部のダイアフラムやバルブの破損
- ベアリングの焼き付きによる回転不良
原因 2: 配線ハーネスおよびコネクターの不良
ポンプとECMを結ぶ配線の断線、接触不良、または絶縁被覆の損傷による短絡(電源線とアース線、またはボディとの接触)が原因となります。コネクターのピンが錆びたり、ゆるんだりしている場合も同様の症状を引き起こします。
原因 3: 電源またはアース回路の問題
ポンプに供給されるバッテリー電圧(通常はIG-ONで12V)が不足している、またはメインリレーやヒューズの不具合で電源が来ていない場合です。また、ポンプのアース(グラウンド)経路がボディ接続不良などで高抵抗になっていると、正常に作動しません。
原因 4: エンジン制御ユニット(ECM)の故障
非常に稀ですが、ECM 内部の駆動回路が故障し、ポンプを制御する信号を正しく出力できない可能性があります。この診断は、他の全ての可能性を排除した後に行うべきです。
確認すべき症状
- チェックエンジンランプの点灯(唯一の自覚症状であることが多い)
- OBD2 スキャンツールでの P1479 コードの確認(他に EVAP 関連コードが同時に記録される場合あり)
- ガソリンタンク付近から「シュー」という空気音が聞こえる(ポンプが常時作動するなどの別故障時)
- 給油時にガソリンタンクキャップを開ける際に、通常とは異なる真空や圧力がかかる
プロセスに沿った診断と修理手順:実践的ガイド
ここからは、実際の車両を用いた体系的な診断フローを解説します。必要な工具は、デジタルマルチメーター(DMM)、OBD2 スキャンツール、配線図(サービスマニュアル)、そして場合によっては真空ポンプ/ゲージです。
ステップ1: コードの記録とフリーズフレームデータの確認
まず、信頼性の高い OBD2 スキャンツールで P1479 コードを読み取り、同時に記録されている「フリーズフレームデータ」を確認します。コードが記録された瞬間のエンジン回転数、水温、車速などの情報は、故障が発生した条件を特定する手がかりとなります。コードを消去し、試運転後に再発するかも確認します。
ステップ2: 目視検査と基本チェック
エンジンルーム内のリーク診断ポンプとその周辺を仔細に観察します。
- 配線とコネクター: 摩耗、断線、焼け焦げ、ピンの腐食や曲がりがないか確認します。コネクターを外し再装着し、接触不良が改善されるか試します。
- 真空ホース: ポンプに接続されているゴムホースの外れ、亀裂、硬化をチェックします。
- ポンプ本体: 物理的な損傷やひび割れ、過度の熱による変色がないか確認します。
ステップ3: 電気的検査(デジタルマルチメーター使用)
配線図を参照し、ポンプのコネクターを外した状態で以下の測定を行います。
- 電源電圧の確認: イグニッションON(エンジン停止)で、ポンプコネクターの電源ピンと確実なアース間の電圧を測定します。バッテリー電圧(約12V)に近い値が出なければ、ヒューズ、リレー、上流の配線を遡って調査します。
- アース回路の確認: オームレンジで、ポンプコネクターのアースピンと車体アース間の抵抗を測定します。理想は0.5Ω以下です。数Ω以上の抵抗値は不良接続を示します。
- ポンプ抵抗値の測定: ポンプ端子間の抵抗値を測定します。仕様値は車種により異なります(例: 10〜30Ω程度)が、無限大(断線)や0Ωに近い値(短絡)はポンプ不良を示唆します。
ステップ4: アクチュエータテストと動作確認
高機能なスキャンツールには「アクチュエータテスト」機能があり、ECMからポンプを作動させることができます。テスト実行中にポンプから「ブーン」という動作音が聞こえ、触れて振動を感じれば、ポンプ自体は一時的に正常と判断できます。この場合、配線やECMの間欠不良の可能性が高まります。音や振動が全くない場合は、ポンプ故障または電力供給の問題です。
ステップ5: 部品交換と最終確認
上記診断結果に基づき、故障部品を交換します。
- ポンプ交換: 純正または同等品質の適合部品と交換します。Oリングやガスケットも同時交換が原則です。
- 配線修理: 断線部ははんだ付けと熱収縮チューブで確実に修復します。コネクター全体の交換がより確実です。
修理後、スキャンツールでコードを消去し、試運転を行います。特にエンジンが冷えた状態から暖まるまでの1回以上のドライブサイクルを経て、チェックエンジンランプが再点灯せず、かつ「モニター準備完了」状態(特にEVAPモニター)が完了することを確認して、修理完了となります。
まとめ:早期診断と確実な修理の重要性
コード P1479 は、走行性能に直接影響しないため軽視されがちですが、車両の自己診断機能を損ない、より重大な問題を見逃すリスクや環境性能の低下を招きます。原因は電気回路に集中しているため、体系的な診断プロセスに従えば、専門家でなくてもある程度の切り分けは可能です。しかし、EVAP システムは排ガス規制に直結するため、確信が持てない場合は専門整備工場への相談をお勧めします。定期的な車両点検で配線やホースの状態を確認することは、このような電気的故障の予防にもつながります。