コードP1473とは? 二次空気噴射システムの役割と重要性
OBD2(車載式故障診断装置)コードP1473は、「二次空気噴射システム流量不足」または「Secondary Air Injection System Insufficient Flow」を示す、フォルクスワーゲン(VW)およびアウディ(Audi)車に特に関連の深いエンジン制御系の故障コードです。このコードが点灯するということは、エンジン始動後の暖機運転中に、排ガス浄化を担う二次空気噴射(SAI)システムが正常に作動していないことを意味します。
二次空気噴射(SAI)システムの基本動作原理
SAIシステムは、主にエンジンが冷間始動した直後のごく短い時間(通常は90秒以内)に作動します。その目的は、排気ガス中の有害物質、特に一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)を迅速に低減することにあります。システムは以下の流れで動作します。
- 1. エアポンプの作動:エンジン制御ユニット(ECU)の指令により、電動式のエアポンプが起動し、新鮮な空気を吸入・加圧します。
- 2. コンバインドバルブの開閉:同時に、真空または電磁式の「コンバインドバルブ」が開き、加圧された空気の流路を確保します。
- 3. 排気マニホールドへの空気噴射:加圧空気は、排気ポート付近または排気マニホールド内に噴射されます。
- 4>化学反応による浄化:高温の排気ガスと混合した新鮮な空気中の酸素が、未燃焼のCOやHCをさらに酸化(燃焼)させ、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)に変換します。これにより、三元触媒が活性化するまでの間の排出ガスをクリーンに保ちます。
コードP1473が点灯するメカニズム
ECUは、SAIシステムの下流(通常は二次空気噴射用のチェックバルブ後)に設置された「空気流量センサー」、または排気ガス中の酸素濃度を監視する「ラムダセンサー(O2センサー)」の信号をモニタリングしています。システム作動時に、これらのセンサーから予期された「空気が追加された」という信号変化が検出されない場合、ECUはシステムの流量不足や機能不全を判断し、コードP1473を記録するとともに、エンジン警告灯(MIL)を点灯させます。
コードP1473の主な原因と症状:どこをチェックすべきか?
P1473の原因は、SAIシステムを構成する複数のコンポーネントのいずれか、またはそれらの制御系に発生します。経験上、特定の部品の故障が頻発します。
頻発する故障箇所トップ3
- 1. コンバインドバルブの故障:内部のダイアフラムの破損やバネの劣化、電磁弁のコイル断線により、バルブが開かなくなることが最も一般的な原因です。バルブが閉じたままでは、エアポンプが動いても空気は排気系に流れません。
- 2. エアポンプの故障:モーターの焼損、内部のカーボンブラシの磨耗、インペラ(羽根車)の破損により、十分な流量の空気を送り出せなくなります。作動時に「カラカラ」や「キーキー」という異音がする場合はポンプの故障が強く疑われます。
- 3. 真空ホースの劣化・脱落またはチェックバルブの故障:コンバインドバルブを真空で作動させるホースが割れたり外れたりすると、バルブが開きません。また、チェックバルブ(逆止弁)が排気ガスで詰まったり固着したりすると、空気の流れを妨げます。
その他の可能性のある原因
- 真空タンクや真空ソレノイドバルブのリーク・故障
- SAIシステム用の配管(エアホース)の詰まりや破損
- 関連するヒューズやリレーの不良、配線の断線・接触不良
- 稀に、ECU自体のソフトウェア不具合やハードウェア故障
車両に現れる症状
SAIシステムは暖機後の通常走行では作動しないため、コードP1473単体では運転性能(パワー、燃費)に顕著な影響を与えないことがほとんどです。しかし、以下の症状が現れる場合があります。
- エンジン始動後、エンジンルームから「ブーン」というエアポンプ音がしない、または異音がする。
- インストルメントクラスターの「エンジン警告灯」が点灯したままになる。
- 車検時などに行う排出ガス検査で、COやHCの数値が高くなる可能性がある。
- 他の関連コード(例:真空系のリークを示すP0441など)が同時に記録されることがある。
プロセスに沿った診断と修理手順:自分でできるチェックから専門修理まで
系統的な診断が、無駄な部品交換を防ぎ、確実な修理につながります。以下に、基本的な診断フローを示します。
ステップ1: 基本チェックと可視検査
まずはエンジンルームを目視で確認します。特に以下の点を重点的にチェックしてください。
- すべての真空ホースとエアホース:脱落、緩み、ひび割れ、焼け焦げがないか。ホースを指で触り、柔軟性を確認する。
- 電気コネクター:エアポンプ、コンバインドバルブ、関連ソレノイドへのコネクターが確実に接続されているか。
- ヒューズとリレー:オーナーズマニュアルでSAIシステム(エアポンプ)用のヒューズとリレーの位置を確認し、導通チェックを行う。
ステップ2: エアポンプの動作確認
エンジンを冷間状態(一晩以上放置後)で始動します。助手席側などからエンジンルームに耳を傾け、始動直後の数十秒間、「ブーン」という明確なモーター音が聞こえるか確認します。音がしない、または異音がする場合は、ポンプ自体またはその電源系(リレー、配線)に問題がある可能性が高いです。診断機でエアポンプの作動テストが実行できる場合は、それを利用すると確実です。
ステップ3: コンバインドバルブと真空系統のチェック
エアポンプが作動していることを確認したら、次はコンバインドバルブが開いているかどうかを確認します。バルブに直接触れ(やけどに注意)、作動時に「カチッ」という感触や振動があるか確認します。真空式のバルブの場合、作動中にバルブへ至る真空ホースを外し、指で真空の吸い込みを感じるかどうかで、真空が供給されているかを簡易チェックできます。また、真空ホースを外した状態でエンジンを始動し、ホースの先からエアポンプの吹き出し空気が出るかどうかを確認することで、バルブが開いているか、配管が詰まっていないかをテストできます(この時、排気熱やホースの飛び出しに注意)。
ステップ4: 修理とアフターケア
原因が特定されたら、該当部品を交換します。
- 部品交換:コンバインドバルブやエアポンプは、純正品またはOEM同等品の交換が推奨されます。ホース類は耐熱性・耐油性に優れた自動車用のものを使用してください。
- コード消去と完了確認:修理後、OBD2スキャンツールで故障コードを消去します。その後、エンジンを冷ましてから再始動し、警告灯が再点灯しないこと、および前述の動作確認(ポンプ音、バルブ作動)が正常に行われることを確認します。可能であれば、スキャンツールで「モニタ準備完了」状態になるまでドライブし、システムが完全に正常と認識されることを確認するのが理想的です。
このコードは、即座に車が走行不能になるような深刻な故障を示すものではありませんが、環境性能を損ない、車検不合格の原因となる可能性があります。系統的な診断で根本原因を突き止め、適切に修理することで、車両の健全性と環境への配慮を維持しましょう。