モトコンポのさらに前に存在した、日本製折りたたみスクーターの原型
ホンダの電動モトコンパクトや、1980年代のモトコンポの前に、日本の折りたたみスクーター史にはもう一つの重要な一頁がありました。その主役が、1964年に登場した「富士ゴーデビル」です。最近、アメリカ・オハイオ州の市場で現存する車両が発見され、その希少な存在が再び注目を集めています。この二ストロークエンジンを搭載した折りたたみスクーターは、現代の全ての関連製品に先立つ、機械的なコレクション品と呼ぶにふさわしい存在です。
富士重工業が生んだ小型移動手段の挑戦
富士ゴーデビルは、航空機やスバル自動車で知られる富士重工業(現・SUBARU)によって開発されました。当時の日本は高度経済成長期にあり、都市部における「ラストワンマイル」の移動手段として、コンパクトで保管性の高い個人用車両への関心が高まっていました。ゴーデビルは、その答えの一つとして誕生したのです。車体は軽量な鋼管フレームを採用し、ハンドルとステップはシンプルな機構で折りたたむことができました。エンジンは排気量50cc前後の空冷二ストロークで、当時としては実用的なパワーを発揮しました。
独創的なデザインと、普及しなかった理由
そのデザインは、機能性を徹底的に追求したものでした。大きな車輪と簡素なサスペンションは悪路での実用性を考慮したもので、ビジネスバッグのような形状に収納できるというコンセプトは画期的でした。しかし、いくつかの要因が普及の障壁となりました。まず、折りたたみ機構が完全に防水・防塵に対応しておらず、メンテナンス面で課題が残りました。また、当時は軽自動車や原付バイクの市場が急拡大しており、より快適で実用的な選択肢が増えたことも影響しました。結果として、ゴーデビルの生産期間は短く、市場に深く浸透することはありませんでした。
歴史的価値と、現代に与える影響
今日、富士ゴーデビルは極めて希少なヴィンテージマシンとして、コレクターの間で高い価値を認められています。それは単なる古いスクーターではなく、日本のモビリティ開発史における大胆な実験の証であり、後のモトコンポや現代の電動折りたたみバイクの概念の先駆けと評価できるからです。その存在は、技術的完成度だけでなく、時代を先取りした発想力がいかに重要であるかを現代の開発者に静かに問いかけています。都市型パーソナルモビリティが再び注目される今、この「忘れられた祖先」の挑戦は、新たな光の中でその意義を増しているのです。