走りながら充電:300kWの大功率ワイヤレス給電に成功
電気自動車(EV)の充電スタイルを根本から変える可能性を秘めた技術が、大きなマイルストーンを達成しました。道路に埋め込まれたコイルから車両へと、300kWという大電力を非接触で送電する「走行中充電(動的給電)」技術の実証に成功したのです。これは、急速充電スタンドでさえも短時間で実現できるレベルに近い電力であり、ワイヤレス給電技術の限界を塗り替える画期的な成果です。
道路そのものが充電器に変わる仕組み
この技術の中核は、舗装された路面の下に設置された専用のコイルです。このコイルが電流を流すと磁界が発生し、走行するEVの車体下部に取り付けられた受電コイルがその磁界を捉えて電力に変換します。これにより、ドライバーは充電スタンドに立ち寄る必要なく、走行しながら自動的にバッテリーを補充できるようになります。特に、長距離トラックやバス、タクシーなど、長時間の稼働と短いダウンタイムが求められる商用車への応用が期待されています。
充電の常識を覆す、その現実的なメリットとは
この走行中充電技術が普及すれば、いくつかの大きな利点が生まれます。第一に、EVユーザーの「充電不安」が大幅に軽減されます。バッテリー残量を気にせず長距離移動が可能になるためです。第二に、大容量バッテリーへの過度な依存が減り、車両の軽量化とコスト削減につながる可能性があります。第三に、都市部における充電スポット確保の課題が緩和され、景観や土地利用の効率化が図れるでしょう。
実用化への道のりと残された課題
記録的な出力の実証は技術的なブレークスルーですが、社会実装にはまだ越えるべきハードルが存在します。道路への設備導入コストの最適化、さまざまな車両メーカーとの互換性確保、送電時のエネルギー効率のさらなる向上、そして広範な道路インフラの改修という国家的なプロジェクトとしての計画が必要です。現在は特定区間での実証実験段階ですが、将来は高速道路の一部車線やバスレーンなどから、段階的に導入が進むと予想されています。
この技術は、単なる充電の利便性向上を超え、エネルギーと移動の在り方そのものを再定義する可能性を秘めています。充電のための「停止」から「走行」そのものへとパラダイムがシフトする、その第一歩が踏み出されたと言えるでしょう。