フォードGT40 XGT-3:伝説のレーシングカーが辿った独自の道
レーシングカーの歴史上、フォードGT40ほど伝説的な存在はそう多くありません。特に、ル・マン24時間レースでフェラーリの牙城を崩した1966年の完全制覇は、自動車史に燦然と輝く偉業です。そんなGT40の中でも、極めて異色の経歴を持つ一台がオークションに出品され、注目を集めています。それが、シャーシ番号「P/1016」、通称「XGT-3」と呼ばれるマシンです。
競技車両から公道走行可能な「GT」へ
この車両の最大の特徴は、その生い立ちにあります。1966年に製造されたMk IIモデルとして出発した後、1968年に当時の所有者によって「XGT-3」プロジェクトの一環として大規模な改造が施されました。目的は、過酷なサーキット走行に特化したレーシングカーを、より快適で日常的なドライビングも楽しめる「グランツーリスモ」へと進化させることでした。
エンジンは427立方インチ(約7.0リッター)のV8を搭載したままですが、ボディは軽量化と空力性能の向上を目指してアルミニウム製のパネルに変更され、独特の形状を持つリアスポイラーが装着されました。また、インテリアも競技用のスパルタンなものから、内装材を増やし、騒音を低減するなど、長距離走行を意識したものへと変更されています。
オリジナル性と歴史的価値の狭間で
クラシックカー、特に名高いレーシングマシンの世界では、「オリジナリティ」が極めて重要視されます。多くのコレクターは、レースに出た当時の状態を保ち、可能な限りオリジナルパーツで修復された車両を求めます。その意味で、大幅な改造が施されたXGT-3は、一般的なGT40とは一線を画す存在です。
しかし、その独自の改造履歴こそが、この車両の真の価値を構成しています。1960年代後半という時代に、所有者がレーシングカーを自分好みの「究極のGT」へと大胆に進化させたという物語は、単なるレースの勝ち負けを超えた、自動車愛好家の情熱の証と言えるでしょう。それは、当時の技術と美的センスを反映した、他に類を見ない「カスタムGT40」という文化的遺産なのです。
オークションに出品されることで、この唯一無二のマシンが次の歴史のページをめくります。純粋なレーシングマシンとしてだけでなく、個人の創造性が生み出した自動車文化の一端として、その価値が再評価される機会となるでしょう。