国と地方の対立:パリ大都市圏の独自路線
2025年5月末、フランス国民議会は低排出ゾーン(ZFE)制度を廃止する法案を可決しました。これは、大気質改善を目的とした自動車の規制枠組みの終焉を意味する国家的な方針転換でした。しかし、パリ大都市圏(Métropole du Grand Paris)はこの決定に従わず、独自にZFEを継続・運用することを決定しました。これにより、国家レベルでは廃止された規制が、特定の地方自治体では存続するという前例のない状況が生まれています。
地域の自律性と環境政策のジレンマ
パリ大都市圏がこの決定を下した背景には、深刻な大気汚染問題への対応があります。同地域は長年、EUの大気質基準を達成できておらず、住民の健康リスクが懸念されていました。ZFEは、最も汚染の深刻な車両を段階的に排除することで、この課題に取り組む主要な手段として位置づけられてきました。国の方針転換は、主に地方都市や郊外における住民の経済的負担への配慮からでしたが、パリ大都市圏は「公共衛生」を最優先課題として掲げ、異なる判断を示したのです。
市民と事業者への影響と今後の展望
この決定は、パリ大都市圏内で車両を利用するすべての人に直接的な影響を与えます。国の法律が変更されたにもかかわらず、圏内では従来のZFE規制(クリテールエア基準に基づくステッカー制度など)が適用され続けます。これは、隣接する自治体との間で規制に差が生じ、ドライバーに混乱をもたらす可能性があります。また、物流事業者や通勤者にとっては、長期的な車両更新計画を見直す必要が生じています。今後の焦点は、このような「二重行政」状態が司法の場で争われるかどうか、そして他の大都市圏が同様の独自路線を取るかどうかに移っていくでしょう。